[吉田満の言葉]

2009-09-27

【日本一メルセデス・ベンツを売る男】

お客さまが期待する満足度が100%だとしたら、100%のサービスを心がければいいというわけではありません。なにしろ、私が売っているメルセデスは、商品だけで十分納得していただける車です。同じ車種のメルセデスならば、誰から買っても一緒。それこそ通販で注文してもいいわけです。つまり、優れた商品ですから、売るための話術やテクニックなどは、それほど必要ではありません。黙っていてもお客さまは財布の紐を緩めてくれます


お客さまにとっての満足度は人それぞれ。マニュアルも判断基準もありません。同じサービスでも、喜んでくださる方もいれば、何も感じない方もいます。そこで、相手が、何を欲しているのか見極めることが必要になってくるのです。人に興味を持つということは、とても楽しいことだと思っています。セールスとはお客さまの個性を拝見する仕事だと思えば、楽しいものです


故障でご連絡くださるお客さまのなかには、車の調子に加えて、ご自身の仕事上のことで悩まれていたり、精神的に疲れていらっしゃる方もいます。そのようなときは、車のちょっとした不具合も、気になるものです。場合によっては、電話だけで対処できる内容のことでも、私はあえて、お客さまのところへ出向くようにしています


"他はもっと安かった"という苦情が、たまにあります。そんなお客さまとは、なかなか信頼関係が築けません。同じセーターを買うにしても、三越とアメ横では、値段もサービスも異なるもの。私は値段には含まれていないもので勝負しています


人に見下されたくない、負けたくない――。これを人生のプライオリティ(優先順位)にしてこなければ、今の私はなかったでしょう


メルセデスを買いたいと思っている方は、すでに車の性能の良さ、乗り心地、満足感など、そのすばらしさを熟知されています。問題は、どんな人間から買いたいか、ということもあるのです


メルセデスを買っているということは、満足を買っているわけですから、売る人間も大切なファクターになるのです。私にとってスーツは戦闘服。お客さまに、"こいつから買ったら、安心かも"と、わかってもらいやすいから、良い服を着ているのです


メルセデスのセールスマンの仕事は、これから清水の舞台から飛び降りようとしている人の背中をポンと押してあげるようなもの。飛び降りる前に、不安や疑問に思っていることを、的確に、スピーディーに、よどみなく、納得してもらえるように答えていく。それがセールスマンの役目なのです


特にご年配の方や女性は、持っている不安や疑問がなかなか言葉として出てこないものです。ならば心を読む。言わんとしていることを的確に読んでいく。そのような力が求められます。けっして私は超能力者ではありませんが、常にお客さまのほうを向いて接していれば、要望、要求、期待が、ある程度見えてくるものです


芸能界は縦の世界です。タレントの方に、単純に高価な車を売ればいいかというと、そうでもありません。その方の先輩よりも、ランクの高い車に乗っていては、問題になる場合があります。最終的にお客さまが判断されることですが、そのような気配りも必要になってきます


トラブルになったとき、お客さまは買うとき以上に、担当者の対応を厳しくかつ冷静に見ているものです。そんなときに、担当者が前に出て対応していかなければ、それ以降の信頼関係は築けません。トラブルは絶好のチャンスだと信じて、これまでも、逃げたくなるようなときでさえ、進んでお客さまに接するようにしてきました


トラブルに直面したときこそ、お客さまから教わることがとても多いのです。自分が浮かれていたり、たるんでいることも、すぐにわかります。それを今後に活かせるかどうか、やはりトラブルは自分にとって絶好のチャンスにしなければいけないのです


フルコミッションの人たちは、すべての部分において、会社やメーカーよりも顧客側につくというスタンス。だから、会社とのトラブルは日常茶飯事です。逆にそこまで尽くすわけだから、お客さまの信頼度は抜群でした


まるで近所の商店で買い物するように、何十億円というお金をやり取りしている方は、たとえようもない雰囲気を醸し出しています。そんなオーラを発した方との商談は、その勢いに飲まれないようにするのが大変でした。仮に飲み込まれてしまうと、車は売れますが、何でもその人のいいなりになってしまうのです。媚びを売れば売るほど、お客さんとの関係は離れていってしまうもの。使い走りになってしまっては、いい付き合いはできない。礼儀も尽くしますが、どんな人とでも、同じ目線で、ということを肝に銘じていました


お客さまが何を欲しているかを先に読んでいますが、あえてこちらから提案せず、ご自身の口から語っていただくように商談を進めていました。やはり勢いのある人は、無理やりこちらの話を受け入れさせるよりも、お客さま自身、"自分は間違っていないんだ"と再確認してもらいながら進めたほうが、商談はまとまりやすいのです


バブルが崩壊したといっても、すべての人が、景気が悪くなったわけではありません。なかには、逆に勢いを増した方もいました

[ 吉田 満 ]