[野田宣雄の言葉]

2008-11-29

【歴史の危機】

ここでのわたしの関心事は、イギリスの新聞「タイムズ」が過去のみずからの言説にたいしてとった責任ある態度である。すなわち、同紙は、いったん過去において宥和政策を支持した自分たちの立場が間違っていたと考えるにいたったとき、潔くその事実を認め、率直な自己審査に立ち上がる勇気をもっていたのである。この爽やかな言論人としての姿勢こそ、わが国のジャーナリズムや論壇にもっとも欠けているものではないのか。


わたしのように、戦争中に少年時代をおくった者からすれば、中国大陸における日本軍の戦果を派手に書き立て、米英を鬼畜と呼んで戦意を煽り立てた新聞というものがなければ、日本はあれほど長期にわたって戦争をつづけることは不可能だったろうという思いを禁じえない。ところが、日本の新聞がみずからの戦争中の言説を徹底的に審査し、その誤りのよってきたるところを大規模に究明したという例を聞かない。

[ 野田 宣雄 ]