[岡崎久彦の言葉]

2009-1-13

【国際情勢判断】

戦前の日本の政治というものは、いまだかつて公正に評価された事がない


皇室が国民の間に何の違和感もなく存在し、空気の如く、そして日本の風土の春夏秋冬の一部の如く、何ら特別な工夫や人為も要せずに国民によって受け容れられ、何のキズもなく代々伝えられて行く


これが私の考えている最も理想的な皇室の形である。そうであってこそ、何世紀に一度かの国家の危機に際して、国民的統合の中心たり得るのである


私は、陛下の政治的信念は、ご生涯を通じて一貫してアングロ・サクソン風の議会民主主義、そして人道主義、平和主義であらせられたと断言して、将来も間違うことはないと思っている


英米のデモクラシー世界と協調しているかぎり、日本の安全と繁栄は大丈夫だという事は、過去何世紀もの世界の流れ、日本の地理的環境から来る動かし難い事実である


新しい年号は平成である。多くの漢語の成句と同じように、始めの一字はわかり易いが、結びの一字「成る」の解釈は難しい


今、日本国民が最も希望している事は何かと言えば、何よりも、現在の安定と繁栄と自由がいつまでも続くことであろう。つまり守成である


真の保守主義とは、即ち革新であるというのはこの意味である。守成とは絶えざる革新であり、放って置けばすぐ積もる因習やタブーの克服である


総理以下政府の努力で、完全な言論の自由の下でも、韓国民が悦んで陛下をお迎えできるところまで日韓関係を改善した上でのご訪問ならば、それこそ世界に誇れる日本外交の勝利であろう


日本のインテリの議論の知的水準はの頽廃(デカダンス)は、私の想像を絶した


中国の政治三原則を批判した牛場大使に対するマスコミの非礼さは、今思い出すのも不愉快なほどである


私は今後とも、判断の自由と客観性だけは譲る気はない。私が戦後民主主義に批判的な態度を取り続けてきた理由もそこにある。私は何も好き好んで戦後民主主義を眼の敵にしてきたわけではない。ただ、将来を曇りない目で見ることに専念しただけである


先入観と偏見こそは、情勢判断の最大の敵である。そして、戦後民主主義の先入観と偏見を捨てないかぎり、日本が客観的な情勢判断を持ち、それにもとづいてその針路に誤りなきを期することが不可能だからである


日中の関係で特に気をつけなければいけないことは、日本国民、あるいはマスコミの中に存在する特殊な対中感情のために、ただでさえ政治力を使う名人である中国に、その背景となる実力以上の政治力の行使を許してしまう可能性のあることです


天を怨む、という言葉がある。論語では天を怨まず、人をとがめず、と否定的な用法となっているが、その孔子自身、顔回の死にあたって、天われを喪(ほろぼ)せり、と憤慨している。私は天を怨みたい気持である。世界の情勢も日本の情勢も大きく変わろうという転換期である。しかも、物事の真実に迫って思索できるひとが暁天の星の如く少ない現在の日本で、何故この人(村上泰亮)が死ななければならないのだろうか。病因も血清肝炎で本人には何の責任も無いと聞くと、ほんとうに、天道是か非かと問いたくなる

[ 岡崎 久彦 ]