[佐野眞一の言葉]

2008-12-15

【文藝春秋】

普段おちゃらけたことばかり言っている輩が真面目なことを言うときは、嘘をついているに決まっている。そう喝破したのは、太宰治である。あのフジテレビが「電波の公共性」とか「リスナーに対する愛情」と、ちゃんちゃらおかしい「真面目なこと」を口走ったとき、私は、この名言を思い出した。


グーテンベルクの印刷機から五百年。パラダイムの巨大な曲がり角の先は、ホリエモンのみならず、まだ誰にも見えていない。

 

2008-12-04

【中央公論】

私は美智子皇后について取材して、半世紀も公務に献身してきた姿に「国母」というイメージを強く刻みつけられた。皇后の存在がなければ、皇室の維持は難しかっただろう。ここで思い出してほしいのは、美智子妃が皇后になったのは、昭和という「大きな物語」の時代が終わり、平成というのっぺりした世の中が始まった時代だったということである。この年、手塚治虫、松下幸之助、美空ひばりという、いずれも頭に「国民的」という冠詞がつく大物が相次いで他界した。美空ひばりを引き合いに出せば、国民みんなで歌う歌がなくなった時代に、国民合意の「物語」を紡いできた皇后に傑出したパワーを感じる。しかしそれは、次代の天皇・皇后を育む風土まで蚕食してきたことにつながらないか。聡明な皇后は、そのことを誰よりも深く知り抜いている。

[ 佐野 眞一 ]